うるさい解体工事の騒音に悩まされている場合は、適切な相手に相談することが重要です。主な苦情の相手先は施主、施工主および公害相談窓口です。本稿では、苦情の相談先および注意点、自ら実施できる工夫などについて解説します。

うるさい解体工事の騒音に関する苦情を伝える相手先

思わず「うるさい」と感じてしまう解体工事の騒音に関する苦情を伝える場合の相手先について、以下で解説します。

施主

まずは施主に事情を説明しましょう。施主とは、解体工事を依頼している依頼主を指します。

はじめに施主に相談すべき理由は、解体工事の実施に関わる基本的な意思決定や判断ができるのが施主であるためです。

一般的に、解体工事の騒音を軽減または解消するためには、養生方法の変更や工事方法の変更などの工夫が求められます。そして、養生方法や工事方法を変更するためには、追加費用が発生する可能性があります。その追加費用を負担することになるのは施主であるため、話をスムーズに進めるためには施主と話し合うことが重要です。

また、施主と会話する際は、解体工事の期間や時間帯についても確認しておくとよいでしょう。解体工事を行う期間や時間帯が限定的な場合は、ご自身の生活の工夫で対応できる可能性もあります。解体工事が長期間続く予定の場合や1日あたりの解体工事の時間が長い場合は、解体工事方法の改善ができないか施主に相談するとよいでしょう。

施工主

施主に伝える方法の他に、施工主に苦情を伝える方法もあります。施工主とは、施主から依頼を受けて実際に解体工事を行っている工事業者を指します。

基本的にははじめに施主に相談することが大切ですが、大掛かりな解体工事方法の変更を伴わないような軽微な要望の場合は、直接施工主に伝えることも効果的です。例えば、解体工事を行う作業員同士のかけ声が大きくて気になる場合などは、施主ではなく施工主に直接伝えたほうが迅速に解決できることもあります。

このように、施工主に伝えるメリットとして、内容によってはスムーズに要望を反映してもらえることが挙げられます。

また、うるさいと感じる騒音が発生する具体的な作業原因がわかっている際も、施工主に相談することですぐに解消できる可能性があります。施工主がスムーズに解体工事の見直しをできる理由は、現場作業のことを最もよくわかっているからです。現場で解体工事を行う施工主は、細かい工事内容や騒音の出る作業工程などを熟知しています。そのため、施主では判断ができず時間がかかってしまうようなことでも、施工主への相談であれば即時に解決してもらえる可能性があります。

ただし、大幅な養生方法の変更など、追加費用がかかる見直しの場合は、先に費用負担元である施主に相談する必要があります。施工主にとっても、直接の依頼元である施主から要望を伝えられたほうが聞き入れやすくなります。なお、施工主の方針によっては、要望事項などは施主を通さないと聞き入れてもらえない場合もあるため注意しましょう。

役所の公害相談窓口

施主や施工主に伝えても依然としてうるさい状況が改善しない場合は、役所の公害相談窓口へ相談する手段もあります。施主や施工主に聞く耳を持ってもらえない場合などは、第三者である役所の公害相談窓口に伝えることも検討するとよいでしょう。

役所の公害相談窓口であれば、行政としての指導を行う権限を持っているため、解体工事のトラブルを解決に導いてくれることが期待できます。ただし、行政としての指導を行うためには、根拠となる情報が必要となります。

根拠となる情報としては、騒音や振動に関する一定の基準値を超えている音量測定データなどが該当します。基準値に関しては地域によって異なるため、環境省の情報などを参考にしましょう。[注1]

[注1]環境省:騒音に係る環境基準について

よって、公害相談窓口に相談する場合は、まずは実際に行政指導に動いてもらうために根拠となる騒音や振動の測定データを準備するようにしましょう。

公害相談窓口は、各自治体で設置されています。公害相談窓口へ連絡する場合は、お住まいの自治体にある窓口を確認するようにしてください。なお、相談方法は、直接窓口へ行く方法の他に電話、手紙、メールでも相談ができます。[注2]

[注2]総務省:公害苦情相談窓口

苦情を伝える際の注意点

上記では、解体工事の騒音に関する苦情を伝える相手先について、施主、施工主、役所の公害相談窓口の3種類を紹介しました。続いて、実際にうるさいと感じた際に苦情を伝える際の注意点を以下で説明します。

ご近所トラブルにならないよう配慮する

施主へ騒音の苦情を伝える場合は、「うるさい」と言い切ってしまわずに、ご近所トラブルにならないような配慮が大切です。

苦情の伝え方によっては、後々のご近所トラブルや人間関係の問題に発展してしまうおそれがあります。

騒音トラブルは好ましいものではありませんが、感情的にクレームを伝える場合と表現に配慮をして伝える場合とでは、受け手である施主の捉え方は大きく異なります。施主の心情としても、丁寧に要望してもらったほうが協力的に改善を図っていく姿勢になるでしょう。

そのため、施主に苦情を伝える際は、強い表現の苦情となってしまわないよう伝え方の配慮をすることが大事です。

施工主へクレームする際は伝える内容を確認してから

実際に解体工事を実施している施工主へクレームを伝える際は、伝える内容が聞き入れてもらえる内容であるかを事前に確認してください。

現場作業に関する局所的な問題であれば、比較的要望を聞き入れてもらいやすいでしょう。例えば、作業員の発声や足音、雑談の声などであれば、気をつけてもらうように伝えれば即日改善してもらえる効果が見込めます。

一方で、防音シートを全面に施すなど、大掛かり解体工事方法の見直しが必要な場合は、施工主へ直接伝えても解決が難しいでしょう。なぜなら、多くの場合で追加費用が発生し、費用負担元である施主の判断が必要になるためです。

このように施工主へのクレームは、主に追加費用の有無によって反映してもらえるかどうかが分かれるため、クレームを伝える前に内容を確認しておくとスムーズなコミュニケーションが図れます。

公害相談窓口へのクレームは最終手段として考える

役所の公害相談窓口へのクレームは最終手段として考えましょう。公害相談窓口では、行政の立場から騒音解決に誘導してもらえる効果が期待できますが、あくまでそれは施主や施工主との折り合いがつかなかった場合です。

第三者の行政からの解決を図ったことで、施主をはじめとする近隣との信頼関係の損失につながるおそれがあります。施主側も先に相談をしてもらえたほうが解決に向けて一緒に協力できることも多いでしょう。

よって、まずは施主や施工主との話し合いからはじめることが重要です。

解体工事の騒音トラブルにまつわる社会事情

ここでは、解体工事の騒音トラブルにまつわる社会事情に関して、騒音トラブルの苦情件数や関連する法律について解説します。

騒音に関する苦情の件数

環境省の調査によると、騒音に関する苦情の件数は、令和元年度は15,726件でした。前年度に比べると439件減少しています。[注3]

[注3]環境省:令和元年度(平成31年度)騒音規制法等施行状況調査の結果について

都道府県別に見ると、首都圏である東京都、大阪府、愛知県、神奈川県、千葉県が多く、これら5都府県で苦情総件数の55.4%と半数以上を占めています。

苦情の内訳としては、建設作業が6,062件で最も多く、全体の38.5%を占めます。次に工場・事業場が4,422件、営業が1,411件と続きます。解体工事は建設作業に該当するため、解体工事の騒音トラブルに関する苦情は社会全体として多いことがわかります。

また、建設作業の苦情件数は平成21年度では4,194件であったため、約10年間でおよそ1.5倍に増加しています。

解体工事の騒音に関する法律

解体工事の騒音に関する代表的な法律として、騒音規制法と振動規制法があります。それぞれについて以下で解説します。

騒音規制法

騒音規制法は、事業活動や建設工事で発生する騒音に対して必要な規制を行い、生活環境の保全と国民の健康を守ることを目的とした法律です。

環境省では、解体工事にあたる建設作業の騒音規制を定めています。具体的には、都道府県の知事などが規制する地域を指定し、環境大臣が騒音の大きさ、作業の時間帯、日数、曜日などの基準を定めています。そして、市町村長は規制対象となる解体工事などの建設作業について、必要に応じて改善勧告などを行うこととされています。[注4]

[注4]環境省:騒音規制法の概要

振動規制法

騒音規制法の他に、振動規制法という法律も存在します。振動規制法においても、生活環境の保全と国民の健康を守る目的については同様です。

環境省は、解体工事にあたる建設作業の振動規制についても制定しています。騒音規制法との違いは、騒音規制法では環境大臣が各種基準を定めていましたが、振動規制法では総理府令で振動の大きさ、作業の時間帯、日数、曜日などの基準を定めている点です。[注5]

[注5]環境省:振動規制法の概要

解体工事の騒音トラブルに関する訴訟事例

解体工事の騒音トラブルの件数について触れましたが、なかには訴訟に発展した事例もあります。以下では、解体工事の騒音トラブルにまつわる訴訟事例について紹介します。

訴訟事例①:マンション1部屋のリフォーム工事

1つ目の訴訟事例は、1997年の東京地方裁判所において判決がされた事例です。

こちらはマンションの1部屋のリフォーム工事に起因するものです。リフォーム工事において騒音トラブルが発生し、下の階に住む住人が騒音に耐え切れず、精神的な疾患を発症しました。また、物的損傷として、給湯管が破裂したとの報告がされています。

訴訟の結果、工事における注意義務違反があると判断され、施工主や設計の責任者に対して損害賠償の支払いが命じられました。なお、施主の過失はないとされ、施主への責任は問われませんでした。

訴訟事例②:解体工事の騒音と振動による精神的疾患

上記の他に、東京都における解体工事の騒音と振動に関する訴訟事例があります。

物理的被害として、建物への亀裂やサッシの歪み、ドア枠の歪みなどが発生しました。また、工事の騒音と振動により、不眠や不安など住民への精神的被害が出たとの報告がされています。

裁判の結果として、施工主に過失があったと判断され、建物の修繕費、慰謝料、弁護士費用などの損害賠償の支払いが命じられました。

騒音についてクレームすべきか迷った際の判断

解体工事の騒音に悩まされている場合に、実際にクレームをするべきかどうか迷うこともあるでしょう。そこで、騒音に対してクレームをすべきか迷った際に大切な判断ポイントを解説します。

騒音のデシベル値を確認

解体工事の騒音が気になる場合、騒音のボリュームを把握するためにデシベル値を確認するようにしましょう。

気になる騒音がどの程度の音量であるかをデシベル値として定量的に把握することで、客観的に騒音を判断するための材料になります。

例えば、住居や商業施設、工業施設がある地域の騒音基準値は、昼間の場合は60デシベル以下、夜間の場合は50デシベル以下とされています。[注1]

[注1]環境省:騒音に係る環境基準について

このように、お住まいの地域に該当する基準値を参考にしながら、気になる騒音のデシベル値を騒音測定器などで定量的に確認するとよいでしょう。

クレームを伝えるべき順序を事前に確認

実際にクレームを伝える際は、伝えるべき相手先の順序を事前に確認することが重要です。

基本的には、はじめに施主へ相談するとよいでしょう。解体工事の実施に関する意思決定や判断ができるのは施主であるためです。工事作業を行う施工主へクレームを伝えたい場合でも、工事の依頼主である施主を通して伝達したほうがスムーズに話が進むでしょう。

ただし、例えば工事現場作業員のかけ声や足音が気になるなど、大掛かりな工事方法の変更を伴わない要望の場合は、施工主へ相談したほうが早く解決することもあります。

注意点として、役所の公害相談窓口への問合せは慎重に判断してからにしましょう。まずは施主へ相談して騒音トラブルの解決を図ったほうが、近隣トラブルや近隣との信頼関係の損失を防ぐことができます。

自らの工夫で改善できることはないかを検討

解体工事の騒音に悩まされている場合、工事業者などにクレームを入れて解決を図ること以外にも、自ら工夫できることがないか考えるとよいでしょう。

目的は騒音の悩みを解消することであり、そのための手段は必ずしも解体工事の騒音自体を減らすことだけではないからです。騒音に悩まされないようにするために、自分自身の生活で工夫できることがあれば積極的に取り入れてみることも重要です。

騒音トラブルに対して自ら実施できる対策

ここでは、騒音トラブルに対して自ら実施できる対策を紹介します。以下で説明するような対策を実施できれば、騒音に対して感じる心理的負担を和らげる効果が期待できるでしょう。

耳栓を使う

効果的な施策の1つとして、耳栓を使う手段があります。耳栓を使うことで工事から発生する騒音自体の大きさは変わらなくても、自分自身の耳に届く音量は緩和することができます。

特に、勉強や読書など、集中して何かに取り組みたい際に騒音に悩まされている場合、耳栓を活用することでストレスの軽減が見込めます。

防音効果の高い耳栓もありますので、自らできる対策の1つとして取り入れるようにするとよいでしょう。

ヘッドフォンやイヤホンで音楽を聴く

耳栓の他に、ヘッドフォンやイヤホンで音楽を聴く方法もあります。工事で発生する騒音は聞き心地の良いものではありませんが、ヘッドフォンやイヤホンで音楽を聴くことで、騒音へのストレスを緩和する効果が期待できます。

リラックスできる音楽や自分自身の好きな音楽を聴くことで、これまで気になっていた騒音もあまり気にならなくなる可能性があります。そうなれば、結果的にクレームを入れなくても済むようになるでしょう。

解体工事の時間帯は外出をする

解体工事の騒音を避けるために、工事の時間帯は外出をするという選択肢もあります。

まずは施主や施工主へ工事の時間帯を確認するようにしましょう。そのうえで、自分自身の生活スケジュールが調整できるようであれば、工事の時間帯は外出することも有効です。

解体工事の騒音に関する苦情は、適切な相談先に伝えましょう

うるさい解体工事の騒音に関する苦情の主な相談先は、施主、施工主、役所の公害相談窓口です。

解体工事の実施に関する判断や意思決定の権限は施主にあるため、基本的にはまず施主に相談するとよいでしょう。解体業者である施工主にクレームを伝えたい場合でも、工事の依頼主である施主を通して伝えるようにすると話がスムーズに進みます。

施主や施工主への相談でも解決が難しい場合は、役所の公害相談窓口へ相談する手段もあります。その場合は、行政による指導となるため、根拠となる騒音のデシベル値などを提示できるようにすることが必要です。

クレームを伝える際は、近隣トラブルや施主との人間関係が損なわれないよう、伝え方に配慮することが大切です。また、耳栓を使用する、工事の時間帯は可能であれば外出するなど、自ら工夫できる対策についても検討するとよいでしょう。